邦人寿命の著しい延伸とは対蹠的に高齢者の口腔環境改善は遅々として進まず、たとえば開始から20年以上を経た8020運動は目標達成の見通しすら立たない。歯の喪失の主因をなす齲蝕と歯周病はいずれも感染症であり、口腔衛生を主軸に据えた歯科口腔保健の推進は合理的だが、その効果が十分ではない現況に鑑みれば、別途の方策の必要は明らかであろう。
当分野は、口腔保健と全身保健の関連を大規模縦断疫学研究によって追及する一方、口腔機能の維持回復を高齢者歯科口腔保健の重要な方策と位置づけ、実効性ある介入手段の提案に向けた研究を進めている。
今後の歯科保健医療において、医療・介護・福祉ほか多様な専門職種との緊密な連携が一層求められることは疑われない。臨床においては、病院内外での診療の実践を通じて、その具体的で実現可能なあり方を模索している。